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今月のおたより・投稿
おたより

[演目を見るということ(三月歌舞伎座 昼の部)]

このところ毎月のように初めて見る演目がある。四十年以上も歌舞伎を見続けているのに、初めて見る演目があることに、歌舞伎の奥深さを感じる。「またかの関」と言われる『勧進帳』、復活上演により人気作品となった『桜姫東文章』、何十年ぶりかで上演される演目があり、新作もあるのが歌舞伎の実力である。
好きな演目に好きな俳優が出演すれば見に行く、好きな演目でも配役が気に入らなければ見ないこともあるし、「またか」と思って止めることもある。そんな私にとって、見たことのない演目の力は大きい。何十年ぶりかの上演ということは、前回の上演で評判が良くなかったのだろうと思いつつ、もしかしたらという期待、今回見なかったら一生見られないかもしれなという不安が私を劇場へ向かわせる。
 三月の歌舞伎座昼の部の『名君行状記』は、前回が平成十三年九月の歌舞伎座、その前が昭和四十九年の新橋演舞場と上演記録にあるが、二回とも見逃していた。真山青果の作品だからという期待と、上演回数が少ないのはなぜかという疑問を持って歌舞伎座に向かった。
主君のお鷹場で狩りをして役人を切り捨てた青地善左衛門(亀三郎)が、名君と言われる主君池田光政(梅玉)の真実の姿を知ろうとして直裁判を願うという話。直裁判でのふたりのやり取りはそれなりに面白く、主君と家臣との情の感じられるものだったが、納得し難いことがあった。それは、若党林助の死への思いである。裁判に至る前、善左衛門の若党林助は、お鷹場で善左衛門に火縄銃を渡した罪で組頭から戒めの縄を受けていたが、善左衛門が縄を解かせたため自殺した。自分の家来を死に追いやるような武士に主君の真実を見たいなどという資格があるのだろうか、殿様も自分の家来は助けたいがその家来は死んでもよいのだろうか……大正十五年に発表された新歌舞伎だけに違和感があった。
結局、『義経千本桜』「大物浦」に感動し、十代目三津五郎の三回忌追善狂言の『どんつく』も楽しんで、『名君行状記』は私の期待しすぎだったかなと思った。上演回数が少ないのにはそれなりの理由がある。でも、そんな作品も大事な歌舞伎の演目である。
(酒匂享子)

[C’est beau!(四月歌舞伎座 夜の部)]

『傾城反魂香』、歌舞伎では『吃又』と俗称される世話場の丸本物。今回は復調なった葵太夫を聴きに。一頃の嗄声も鳴りを潜め、再び艷やかな照りを取り戻したことにお慶びを申し上げる。本当によかった。このうえは無理遣いせぬように、後進の指導にも当たって欲しい。この芝居の初見は菊五郎の初演、そして今また菊之助の初めての女房おとく。しんなりとしたしゃべりには、売れない絵描き夫婦の苦労と充実した役者の華が並び立つ。不肖の弟子だった又平を心配だった東蔵はイソイソと衣服大小を持ってくるうれしさ。始まる物着の合方。これもあるから好きなのよ。俳優の素養や夫婦の情愛、立ち居振る舞い。そんなこんなも下座の砧に乗せ、ゆらりと流れていく。終始苦労人の夫から目を離さない菊之助。その性根は懸命の夏に海老蔵を相手にした父と同じ。同じく初役を勤めなさった。『帯屋』は壱太郎のお半、抱かれる形と膝で勝負。猿之助得意の『奴道成寺』は三つ面、最初の取り替えからジワの海。あとは釣り込まれるように見て、最後に全すべて外して大拍手。後見すら面を見せない鮮やかさの工夫を袖席で初めて目の当たりにした。
(位星)

[赤坂に咲く新作の櫻(四月赤坂ACTシアター)]

二代目左團次に岡本綺堂、六代目菊五郎に宇野信夫、六代目歌右衛門に三島由紀夫の例を挙げずとも父・十八代目勘三郎における同時代人・野田秀樹や串田和美との盟友関係が歌舞伎界に新しい作品や視点(演出)を提供。歌舞伎劇を単なる古典劇とせずにその時その時の「現代演劇」として観客に提供してきた。今回は父から赤坂大歌舞伎を継承している子息の勘九郎が蓬莱竜太という新しい才能との出会いを実現させた。都下の満開の桜が雨に濡れるなか、劇場に足を運ぶ。題して『夢幻恋双紙 赤目の転生』。まずは成功と言える出来映えだ。蓬莱竜太では岸田國夫戯曲賞作品の「まほろば」を初演再演と観た。
女性ばかりの作品だったが、男と女のあり方や命の再生が神話的な枠組のなかで時にコミカルに切なく展開されていた。今回の作品も男女の関係を「生まれ変わり」や「転生」という仕掛けを活かして進んでいく。太郎(勘九郎)という少年から青年になる男が歌(七之助)という同世代の何やら事情のある薄幸の女性に尽くす。最初は愚図でまったく生活力のない男として、次は悪知恵の働く嫌な男として、そして三度目は人気者だが屈折のある男として。夢か現か、物語は源乃助(亀鶴)に殺される度に少年期の野原のシーンに戻る。三度目に源乃助に殺さる時には相討ちを果たし、次の人生で邪魔されないように試みるのだが……そのあとの場面では太郎は源乃助に「転生」し、そこで兄妹の秘密が明かされる。勘九郎はタイプの違う男を演じて破綻がない。特に二番目の太郎で異彩を放つ。七之助は終始受けの演技だが第一幕で次第に看病疲れするあたりを上手く演じる。猿弥の剛太が流石に江戸前の職人らしく、鶴松が歌に嫉妬する静を好演し進境を見せ、抜擢のいてうは、お調子物で時に狡賢い末吉を上手く造形。国広和毅の音楽も違和感なく溶け込む。蓬莱作品の次なる試みを楽しみにしたい。(九日所見)
(野端康善)




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