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今月のおたより・投稿
おたより

[華のある役者 新・彦三郎(五月歌舞伎座 昼の部)]

“口跡の優れた人”というのが亀三郎への世評であった。
だが、その優れた点を生かす機会が少ないことに、もどかしさを感じていたひとりとして橘屋型『石切梶原』には溜飲が下がった。
以前に見た『暫』において(平成二十一年五月歌舞伎座)成田五郎をよび出す腹出しを勤めた折、持ち味の調子のよさが僅かな場面ではあるが印象的だった。
その後も主に菊五郎に一座して舞台を大切にし、粛々と勤める姿は新・亀蔵ともども非常に好意がもて、独特で古風な見得の仕方も大好物。個性的なこの俳優にもっとスポットライトがあたることを願っていた。
よって待望の襲名披露は、彦三郎の名にふさわしい舞台になった。この芝居をあまり理詰めで運ばれても閉口もので、その点新・彦三郎の梶原は、目利き・俣野を制するところ・身の上を明かす件・手水鉢を斬るなどの各所で、その口跡を存分に発揮し生締めの役柄を見事に演じていた。要所で舞台が明るくなるような華のある梶原は、私が見たなかでは同じ橘屋型で演じていた五代目富十郎以来ではないかと思った。(播磨屋型でやれば芝居の質感も変わるのは承知の上だが。)
楽善の大庭は声が衰え知らずなのがうれしく、俣野の亀蔵も荒若衆らしい勢いを感じさせた。
これからの彦三郎に楽しみは尽きないが、同世代では唯一無二の強みを揮える、新歌舞伎の内でも綺堂・青果劇の早間なセリフで迫ってくる熱を帯びた芝居を期待したい。生真面目そうで容姿が良いところも、イメージの二代目左團次に似ているような気もするからだ。
(宮本直人)

[一声一代(五月歌舞伎座 夜の部)]

毎年恒例の團菊祭、梅幸二十三回忌、羽左衛門十七回忌と角書付いた今年は感慨深い。如月半ばに出る主要配役では、解りやすい世界と趣向といったところ。なかでも『対面』は、六代目菊五郎襲名時に整理された新しい台本で、音羽屋を祭る今月に相応しい大狂言。三兄弟で坂東、市村、河原崎の大名跡と三当主の揃う珍しさもある。なかでも特筆は翁名を名乗る楽善の朝比奈、生硬い口跡だけを遣う印象を一掃する。こんなに面白くせりふを斬新に喋る役なんだと刮目、完全に脱帽である。継足を巧みに操りながら、メリハリある仕草で大幹部は、息子ふたりはおろか孫にも江戸言葉を存分に聞かせる。役者は役を生かし、役は役者を活かす。今為すべきを為す、今月の華。当代の彦三郎は、もう十分に声量は判ったから、荒事でも張り上げる一本調子を直して欲しい。初お目見は家の跡取り、小さくとも隅々まで通る声は立派な折り紙。大したもの。
五月の注目は、何と言っても、『弥生の花浅草祭』。確りとした四段返しは見応えタップリ、時節柄の『三社祭』もうれしい演目。踊る松緑に亀蔵は、これから上手くなる相手を見据えた上手の組み合わせという、今ならではのイキも窺える面白さ満喫。背を向けては肩で息つく程に元気いっぱいの亀蔵も清々しい。松緑は拍子をたっぷり使って獅子を踊り、髪洗いの美しい線形を作っては満場の拍手。最後に掛けての気迫も雄々しく華々しい。紀尾井町は、兄貴分として少しだけ肩の力を抜いた台詞と所作が、却って余裕の美を生む。役者の器を一回り大きくするチャンスと見た。
(菊立涌)

[風薫る浜町河岸での花形歌舞伎(五月明治座 昼の部・夜の部)]

五月の明治座は愛之助を座頭格の花形歌舞伎。昼の部ではかつてここを拠点のひとつとしていた新国劇の代表作『月形半平太』を歌舞伎として初上演する好企画。同時期に新ロイヤル大衆舎による「王将」三部一挙上演と言う企画もあり、こちらも大変面白い舞台だった。奇しくも今年は新国劇結成から百年目、幕を閉じて三十年目の節目。再評価の年となって欲しいものだ。新国劇の作品群は歌舞伎俳優にとっても挑み易い分野だと思う。「人の心に珍しきと知る所、即ち面白き心なり。花と、面白きと、珍しきと、これ三つは、同じ心なり」とはこれ世阿弥の言葉。演目の固定化が指摘されて久しいが、「珍しき」がやがて定番になる時もある。挑戦は大切だ。注目の愛之助の半平太は剛柔の緩急があり、同性から頼られ、異性から慕われる好漢を巧演。対する桂小五郎は片岡亀蔵。巷間伝わる桂のイメージとは違うが、愛之助に対する格としては申し分ない。吉弥の女将お源が京の風情を送ってくれる。芸妓染八の屈折した思いが分かりにくいのが難か。ほかに松江の岡崎、壱太郎の梅松、萬太郎の龍馬ら。演出上、暗転が多いのは仕方ない処だが、洋楽系にアレンジされた音楽がその場をうまくつなぐ。昼の部はこのあと楳茂都『三人連獅子』。子獅子の種之助が元気溌剌。昼の部は愛之助大奮闘。夜の部は『南総里見八犬伝』の通し狂言。愛之助は道節一役でむしろ更に下の世代の花形総出で草双紙風の肩の凝らない作品になった。なかでは蟇六と扇谷定正二役の鴈治郎が流石にしっかりと舞台を締める。今回の特長は玉梓の恨みの原因を見せた事。千壽がその抜擢に応えた。雛衣役の折之助も同様で脇役にチャンスを与えるのも花形歌舞伎のやるべき仕事だ。普段女方の多い米吉の信乃が芳流閣大屋根の立廻りで倒錯の美を見せる。ほかでは松江の金碗大輔をしっかりと演じ、物語の発端をつくる義実の橘三郎が老巧だ。(三日所見)
(野端康善)

[延若からの教えを受け継いで(五月大阪松竹座)]

三代目實川延若。二十代のころ、父より一歳年上の實川延若が大好きだった。あの顎のしゃくれた古風な錦絵のようなお顔とかすれた声、踊りも巧かった。
五月松竹座『怪談乳房榎』。「三世實川延若より直伝されたる十八世中村勘三郎から習い覚えし」、この角書が延若ファンにはとてつもなくうれしい。こうやって河内屋の芸が中村屋に引き継がれ、ケレン芸の面白さを堪能できる。
延若の乳房榎は、四十年ほど前、確か中座で観た。二階の座敷の階段での下男正助と、うわばみ三次の早替りでびっくりしたことを覚えている。勘九郎の早替りはさすが三十代、スピード感があった。そして中村屋のエンタメ精神あふれる演出。ひとつ目は、勘九郎が二階席と三階席を瞬間移動のごとく走り抜けること、ふたつ目は本水使用の前のビニールの扱いの予行演習だ。これらは昔はなかった。
十八代目勘三郎は延若の死の一年前に教えを乞うたという。本当に間に合ってよかった。生真面目な印象のある延若だが、そこは大阪の人、勘三郎にこんな冗談を言ったという。「高いでっせ。別料金や」。
延若の命日は五月十四日。兼ねてからの懸案だったお墓参りもできた。 残念ながら延若の名は伏名になったが、河内屋の芸が新しい形で楽しめたことは感慨深い。
(児玉硝子)

[幕見席での発見(四月歌舞伎座 夜の部)]

四月歌舞伎座の夜の部『奴道成寺』を幕見席で見た。四月は孫の世話があったのでチケットを購入しなかったのだが、休日には子守が不要になり、都内に出かけた帰りに歌舞伎座に足を延ばしたのである。『奴道成寺』は猿之助も所化の若手も生き生きとしていい舞台だったが、私にとっては、久しぶりの幕見席での観劇が、舞台を見る楽しさを改めて感じさせてくれることになった。
感じたことがふたつある。ひとつは、桜の季節に舞台の桜を見る楽しさを実感したことである。舞台の桜を見ながら、私の心の中には、昼間見た皇居周辺の美しい桜の姿が浮かんできて、舞台の桜と現実の桜がひと続きのものとして感じられ、桜の中で踊っていることがリアリティをもって感じられた。これまでも桜の時期に『道成寺』の舞台を見たことはあったはずだが何故だろうと考えてみたら、いつもはずっと歌舞伎座の中にいるので、舞台の外に広がる桜のイメージを実感していなかったのではないかと気が付いた。桜の季節の、そして幕見ならではの贅沢なのかもしれない。
もうひとつは、開幕を待つワクワク感を強く感じたことである。幕見席のチケットを購入するために並ぶ。チケットを買えるだろうかという心配は、係の人の言葉で消えたものの、並んだのが遅かったため立って待つことになり辛い。やっとチケットを購入できた時の安心感。しかし、集合時間までまた待つことになる。待っているうちに期待が高まってくるのは不思議だ。立ち疲れたので早めに四階に行き、毛氈を掛けた床几に座って待つ。同じように待っている人たちとおしゃべりが始まる。「歌舞伎座に出てくれると幕見で何度も見られて嬉しい」という熱心なファン、「たまたま通りかかったので入ってみた」という歌舞伎初心者、「昔はエレベーターがなくて大変だった」という昔話など。話しているうちに、熱心なファンの気持ちが伝染する。集合時間が来てチケットの購入番号順に並び、入場し、席を確保する。立ち見の人も出る大盛況である。お芝居は混んでいる方が楽しいものだ。みんなのワクワク感が更にワクワク感を盛り上げ、幕が開いた。
(酒匂享子)

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