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今月のおたより・投稿
おたより

[一級品の証(十一月歌舞伎座 昼の部)]

十一月、中村東蔵は雪が恨めしかっただろう。『奥州安達原』では、十年以上会っていなかった娘と孫を凍えさせたのが雪だった。その次の『雪暮夜入谷畦道』では、目が見えないのに雪に下駄の足を取られながら、三千歳の待つ大口寮まで向わねばならなかった。目が見えないのは『奥州安達原』でも、雪のなかを子に引かれて親を訪ねた娘、袖萩もそうだった。目が見えない人にとって雪の降るなかを歩くというのは、どれほど大変なことなのだろうか。
『奥州安達原』では、雀右衛門の袖萩が祭文の三味線も含めて真女形の確かな芸を見せた。襲名以来大役が続いている雀右衛門だが、袖萩のような薄幸な女性の役が、現在はその仁に一番合っているように思われる。この袖萩と安倍貞任の二役をひとりで勤めることが多いが、雀右衛門がいる以上、吉右衛門としても二役を勤める必要はあるまい。見る方としては、吉右衛門の出番が後半だけというのに物足りなさはあるが、貞任親子三人が抱き合っての大泣きの場面などを見ると、あえて二役を分けたに叶う見どころがあった、望むらくは白旗の場面を見ていると、桂中納言の入りの場面を見たかったところではあるが、それは望み過ぎであろう。
『雪暮夜入谷畦道』は、菊五郎の直侍、時蔵の三千歳、延寿太夫の清元と、どれもが繰り返し演じられてきた一級品である。この作品には繰り返し演じてこられたからこその工夫が細部にわたって散りばめられているが、さらに、それを長年一緒に舞台を勤めてきている菊五郎劇団のアンサンブルで見せられると工夫が工夫に見えないのが一級品の証だ。これだけのものを見てしまうと、この後、このレベルのものをいつまで見られるか、次の世代が引き継げるか、がかえって気になってしまうが、それこそかつての菊吉爺がしたような余計な心配だった。当代の菊吉爺になりかかっている我が身に呆れ返って十一月の歌舞伎座を後にした。
(高橋直樹)

[「平成歌舞伎」の集大成(十一月歌舞伎座 昼の部・夜の部)]

玉三郎を除けば大幹部クラスが顔揃え名実共に顔見世興行で平成歌舞伎の集大成を見る思い。まずは昼の部から。序幕は『鯉つかみ』。本水使う夏狂言で染五郎最後の演し物としてどうだったか。『操り三番叟』などがよかったのでは。続く『袖萩祭文』が袖萩の出からで此処からでも充分長いが、貞任の出の唐突感は否めず、吉右衛門の貞任もその点若干損をしている。時間配分を考えると序幕は短い演し物にして「敷妙上使」「矢の根」から上演したいところ。直方を切腹させたのも貞任の企みという点が不鮮明になるからだ。今回は初役の雀右衛門の袖萩が傑出。「この垣一つがくろがねの」でほろっと。先代(四代目雀右衛門)が手掛けなかった役で傑作を造形した。続く『直侍』では直次郎の菊五郎が蕎麦屋で丈賀と知ってほっとするところや雪道の歩みひとつ取ってもまさに生世話のお手本。時蔵の三千歳も直次郎を見つめる眼差しが印象的。團蔵の丑松の暗さ、秀調の喜兵衛の実直さそれぞれ底光りする芸。家橘・齊入の蕎麦屋夫婦も見逃がせない。夜の部は『忠臣蔵』「五・六段目」から。夏冬冬と来てまた夏。歌舞伎座でこの場だけ単独上演するのは戦後二回目でいずれも当代松嶋屋の勘平。周囲を上方中心で固め充実した舞台に。基本は十五代目羽左衛門系だが鉄砲は一回撃つだけとか、仏壇の下の戸棚から渋紙に包んだ刀を自ら取り出すあたりに松嶋屋の工夫も。猪も旋回せず真直ぐに退場。定九郎は黒鞘の染五郎。秀太郎のお才が良いのは当然として吉弥も手強く演じて好演。二人侍は彌十郎と彦三郎で東京式。五十両おかやに返すのは疑問。中幕は一転し冬の『新口村』。藤十郎の忠兵衛。所作は内輪だが滲み出る風情は貴重。切が『大石最後の一日』。高麗屋三代の襲名前最後の狂言としてぴったりの好企画。「初一念」が幸四郎の役者人生と符合する。染五郎の磯貝と児太郎のおみのの悲恋が心打つ。金太郎の内記も懸命の演技。荒木に仁左衛門が付き合う。(五日所見)
(野端康善)

[あなたにも拍手を(11月新橋演舞場)]

中秋の名月を指し、真ん丸ですねに開いた口は誰もフォローせず。国営放送の夜の報道番組の女子アナウンサがこんな馬鹿では。歌舞伎は舞台の上が7分、残りは見物が補って出来上がる芝居、そう考えていたら同じようなことを役者で言っていた、なんと慧眼。ワンピース後半戦は、芯の役者が不慮の事故で使えず、当初マチネで演じた若者が登用される。いくらソコソコの人気があっても、ニンとガラの違う俳優、切符も売れないかも。開けてみれば11月もホボホボ完売、不在なれども恐るべし猿之助。実際の舞台は右近。FarFarTimeで周りはすぐに立ち上がってスーパータンバリンを手にリズムを取るけど、前に座る老夫婦は座ったまま。声を掛けて誘おうかなあと思って暫く様子見、段々盛り上がって来てフト前を見たら、オジイチャン立って手拍子してる!それからは、白ひげがエーズに向ける言葉を聞いては独り拍手するしウンウン頷いているし、スッカリ感情移入。こういう見方もあるんだなあ。幕間に3階の廊下を歩いたら、真ん中の部屋から太いダクトが出ている。ナンダこれ?と思ったら、そこは照明室。前へ回って数えたら室内に大きな投光器が4本にプロジェクタも1台。そりゃ熱い訳だよ、火事になるわ。再び舞台を見れば、道具方が大きな吸水布を何枚も手にして床に敷いた布地に染みた水気と闘っている。楽しい舞台の為に多くの裏方は懸命の努力と辛抱を重ねている。ありがたい、ありがたいと重ねて感謝します。来日の美国大統領まで引き寄せる、ひとつなぎの財宝。しかも午後は休演、おそるべし。
(二つ猿)

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